#9 ビジネス感覚全否定で日本再生!「奇跡の経済教室【基礎知識編】」

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こんばんは、イチカラセイジです。

今回は2019年4月30日発行、中野剛志氏著、「奇跡の経済教室【基礎知識編】」について、皆様にお伝えしていきたいと思います。

発行から1年が経過した現在、楽天の書籍ランキング上位の座をキープし続けている一冊で、経済に関する書籍自体がこれだけ長く売れるというのも不思議だったので、いずれ読みたいと考えていた書籍です。

はい、積ん読状態でした。。。すみません。

ようやく手に取り、読み進めたところ、あれ?経済政策に関する書籍ってこんなに読みやすいの?と思うくらい、何と言いますか教科書っぽさの真逆にある一冊です。

タイトルには経済教室とありますが、教えている先生はユーモアにも溢れ、本著で紹介する著者が正しいものとして信じている経済理論に対し、反論する敵が繰り出す内容に対する指摘も入れながら、読者が抱く疑問に随時答えながら読み進めていけるような構造になっています。

本著は【基礎知識編】と【戦略編】に分かれており、今回は【基礎知識編】に対する書評となります。

それぞれがどう分かれているのかを簡単に書くと、

【基礎知識編】・・・デフレやインフレとは一体どういった状態なのか。デフレ時に取るべき処方箋とその根拠となる経済理論。貨幣理論について分かりやすく。なぜ多くの主流派経済学者が誤った認識を持っているのか。それに対する反論。

【戦略編】・・・著者が支持している理論【信用貨幣論、現代貨幣理論、機能的財政論】がなぜ理解されないのか?阻まれているのか?どうやったら主流的な考え方に持っていけるのか?実践的な一冊とのことです。

今回は【基礎知識編】についてお伝えできればと思っていますが、【戦略編】についても取り上げていきたいと思います。

それでは早速見ていきましょう。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

「どんな人が書いているのか」

 著者・中野剛志氏。1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優秀修士号、05年に博士号を取得。
 主な著者に「日本思想史新論」、「TPP亡国論」、「日本の没落」など。本書の第2弾「全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略論】」が小社より2019年7月発行。

「本を読むとどんな知識が得られるのか」

 これまでの政治家、官僚、経済専門家、大学教授、アナリストなどの専門家たちを「経済の基本」も理解していない素人と冒頭からぶった切っていますが、本書を読んで私自身もはじめて、「お金とは?の考え方」「税の考え方」といった根本的な議論にすら決着がされておらず、諸説あり、それぞれの考えに基づいた経済理論が存在するということ。
 キャッチーな表現を使っているが、実際は「素人」というより、著者とは違う経済理論に精通し、信奉してきた学者たちといった感じでしょうか。
 いずれにしろ、著者が支持する経済理論を体系的に、そして分かりやすく展開されている一冊であり、それこそ経済素人でも面白く「争点」となっている部分を学ぶことが出来ます。

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「どんな人にオススメか」

 巷で噂になっている「国の借金1000兆円嘘説」、「自国通貨を発行できる日本において財政破綻はあり得ない」、「国は財政赤字を気にせず財政出動すべき」といった、最近の緊縮財政に対する疑問に対する答えを得られるかと思います。
 真っ向からぶつかる経済学者同士の意見の中でも争点部分について、しっかりと根拠もあわせて記載されていますので、これを読んだ人が、別の人にオススメしたくなる一冊だと思います。「(私には全部は説明できないから)是非これ読んで!」といった具合に(笑)

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「イチカラセイジが得られた学びとは」

 なるほどと思った部分がいくつかあります。

①合成の誤謬(ごびゅう)について

 「デフレとは「需要不足/供給過剰」の状態です。したがって、デフレを脱却するには、需要を増やせばよい。つまり、消費や投資を拡大すればよいのです。そうすれば、デフレから脱却することができ、景気はよくなって、経済は成長する。
 そうであるならば、人々が消費や投資を増やせばいいわけです。 しかし、それが口で言うほど簡単ではないのです。 これまで述べてきたように、デフレ下では、不景気なのでモノが売れません。
 誰もが消費も投資も手控える。むしろ、節約に励むでしょう。そうすると、需要はますます不足するという悪循環に巻き込まれることとなり、デフレが続きます。
ここで、ぜひ押さえておいてほしい重要なポイントがあります。 
 それは、デフレ(需要不足)で不景気の時に、個人や企業が消費や投資を手控え、貯蓄に励むというのは、まったくもって経済合理的な行動だということです。」

 ミクロとしては、経済合理性のある行動をとっていたとしても、それをマクロ的な観点でみると、需要の縮小を招き、人々をさらに苦しめるという不条理な結果を招いてしまう。個々の最適な行動も、全体で考えると好ましくない事態がもたらされてしまうということです。

このような現象を経済学の用語で「合成の誤謬」と言います。
そして、この現象を解決できるのは政府しかありません。

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②経済政策はビジネス・センスで語ってはいけない

 何を言うか!民間目線で官を見なくて、どうやって税金の無駄遣いが無くせるんだ!とすぐにでも指摘が飛んできそうですが、本書では、特に「デフレ対策」は直感に反することがあるという認識が大切だと指摘しています。
 
 改めて、デフレとは「需要不足/供給過剰」の状態です。
経済界には、「非効率な企業が淘汰されれば、経済は成長する」という考えには根強い人気があります。

 「もっとも、個人や企業がデフレの下で支出を抑制してしまうのは、無理もないことです。なぜなら、それが経済合理的だからです。しかし、そのような時に、政府までもが支出を抑制してしまったら、デフレはさらに悪化してしまうのは必定です。
 そこで、政府は、需要不足を解消するために、むしろ財政支出を拡大して需要をつくりだすべきなのです。
 「国民が身を切っているのだから、政府も身を切って財政支出を削減する!」というのは、一見もっともらしく、格好いいですが、これは単なる「合成の誤謬」に基づく愚かで迷惑な政策にすぎません。政府の歳出削減は、国民受けはしますが、そのせいでデフレが悪化し、それで苦しむのは国民です。「身を切る改革」を断行する「改革派」の政治家は、国民の身を切り刻む迷惑な存在でしかありません。
 デフレの時には、「大きな政府」こそが望ましいものとなります。政府が支出を増やせば、需要が生まれます。公務員など公共部門で働く人の数を増やして、雇用を創出するのもいいでしょう。公務員の給料を上げれば、民間企業も給料を上げざるを得なくなります。」

「まとめるならば、デフレの時には、次のような優先順位になります。
 最善の策:必要なものを造る公共投資
 次善の策:無駄なものを造る公共投資
 無策:公共投資を増やさないこと
 最悪の策:公共投資の削減」

あの「公共事業は穴を掘って埋める仕事でも良い」のケインズ理論と同じ考えですね。
本書の主張では、確かに経済政策は直感的に真逆のことを政府にやってもらうことが必要であり、ビジネスセンスとはかけ離れた理論となっています。
ただ、イチカラセイジなりに補足すると、この理論は通貨の発行が可能な「国レベル」の話であり、地方自治体の方々にとっては中々違った話なのかなと思いました。

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③現代貨幣理論に基づくと、通貨は納税できるから価値がある。

 現代の現金通貨は、貴金属との交換が保証されない「不換通貨」です。その現金通貨は、なぜ貨幣として、お金として価値を持って流通しているのでしょうか。
 著者は、「通貨は、納税の手段となることで、その価値を担保している」という経済理論である「現代貨幣理論」を支持しています。
 
 本書では、仮想通貨という日本銀行を介さず、理論上誰でも発行が可能な通貨が発生した事自体、歴史的な意味があると称賛している有識者をばったばったと切り倒していますが、「現代貨幣理論」に基づくと、以下のように本質的な価値が担保されていない通貨として以下のように指摘しています。

 「本物の通貨は、納税義務を解消することができます。それが、本物の通貨を支える基盤的な価値です。 しかし、仮想通貨では、納税義務の解消はできません。では、仮想通貨の価値を支える基盤的な価値とは、いったい何なのでしょうか?」

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④政府財政赤字の限界はない

 この辺りの話というのは、結構耳にする機会が増えました。
 所謂、「国の借金1000兆円」に対する話ですね。本著では、「日本政府について言えば、その返済能力には、限界はありません!」と言い切っています。
 
 理由は、借金返済の為に必要な通貨自体を、自国通貨として発行できる力を持つのが政府自身だからです。政府意思によって、「借りた金を返さない!」と意図的な政治決定をしない限り、財政破綻はあり得ないと主張しています。

 通貨を発行できるから、財政破綻はあり得ないというのはわかったけど、じゃあ財政赤字1000兆円というのは?というか、無限に通貨発行できるんだったらそもそも納税なんてしなくて良いのでは?公共事業だってどんどんやれば良いじゃないの!?と疑問がいくつもいくつも湧いてきます。

 「では、財政赤字の限界とは、何でしょうか?まず、政府が、財政赤字を拡大しまくったら、何が起こるかを考えてみましょう。
 例えば、政府が盛んに公共投資をやり、投資減税や消費減税をやったら、需要が拡大して、供給力を超えるので、インフレになります。
 それにもかかわらず、公共事業をやりまくり、ついでに無税にしてみたら、どうなるか。おそらく、インフレが止まらなくなり、遂にはハイパーインフレになるでしょう。
 インフレとは貨幣の価値が下がることですが、ハイパーインフレになると、お札はただの紙切れになってしまいます。ハイパーインフレは、さすがに困る。いくら政府に通貨発行権があっても、その通貨が無価値になってしまうのです。ハイパーインフレこそ、国家の財政破綻と言っていいでしょう。
 要するに、財政赤字が拡大し過ぎると、インフレが行き過ぎるのです。 ということは、財政赤字はどこまで拡大してよいかと言えば、「インフレが行き過ぎないまで」ということになります。
 財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率(物価上昇率)なのです。」

上記のこのような財政の考え方を「機能的財政論」というそうです。
そして、この機能的財政論では、納税とは物価調整の機能を担っている手段の一つだそうです。財源確保の為の納税ではありません。

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⑤ハイパーインフレが起こる可能性はない

 ④まで理解すると、ではデフレ脱却に向けて、財政赤字拡大を続けたら良いではないかという主張なわけですが、そうなると、今度は通貨、お金の価値が下がります。それが行き過ぎて、単なる紙切れ化してしまうのではないかというハイパーインフレを懸念する声も聞こえてきそうです。
 
 結論としては、変な話になりますが、逆に財政破綻させる為にはどういった政策を展開すれば良いかを考えてみると、国家の強い意志をもった上で、無税国家にして、かつ財政支出を拡大し続ければ、ハイパーインフレ化すると言われています。
 ですが、実際の政治の中でそんなことが起こり得るとは到底思えません。

⑥プライマリーバランスを黒字化して破綻する

 国の財政制度等審議会でも述べられているように、現在政府はプライマリーバランスの黒字化を目指して政策を進めています。

 「プライマリーバランスの黒字化」というと、簡単な理解としては入ってくるお金と出ていくお金を黒字化を目指していると受け止めれる話なのですが、それを行って破綻した国々がいくつも本書では紹介されています。
 
 なぜそうなってしまったのか?そしてなぜ財務省の審議会においても、未だにプライマリーバランス黒字化にこだわった議論がされているのでしょうか。

イチカラセイジ自身として、記載した上記⑥点以外にも、多くの学びがある一冊となっています。

冒頭でも記載致しましたが、なぜこれだけ正しいと思われる理論を展開しているのにも関わらず、国ではトンチンカンな議論が展開されているのか?なぜ、「デフレ下においてインフレ対策の政策を実施しているのか?」

納税者として「頭に???」しか浮かびません。

しかもこれは、安倍政権がー!とかの問題ではなく、民主党政権下でも同様に行われてきた政策であり、どちらかというと財務省・経済学者等の戦争のような気もします。

いずれにしろ、この辺は2冊目の【戦略編】にかかれていることと期待して、読みたいと思います。

今回も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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