#12 出会えた事に感謝する一冊。 「父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」

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こんばんは、イチカラセイジです。

今回は、「元財務大臣の父がホンネで語り尽くす!世界経済の本質が一気にわかる!」と話題沸騰、ヤニス・バルファキス氏著、「父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」について、お伝えしていきたいと思います。

本書は、2019年3月6日発行ですでに16万部以上売り上げている一冊です。
先に申し上げてしまいますが、本当に素晴らしい一冊です。

それでは参りましょう。

Photo by Irina Murza on Unsplash

「どんな人が書いているの?」

 ヤニス・バルファキス氏著。1961年アテネ生まれ。2015年、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務め、EUから財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張し、世界的な話題となった。長年イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、現在はアテネ大学で経済学教授を務めている。著者には本書の他に、EU経済の問題を指摘した「わたしたちを救う経済学」や「史上最良の政治的回想録の1つ」と評された「黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命」など、数々の世界的ベストセラーを持つ。2016年にはDiEM25(「欧州に民主主義を」運動2025)を共同で設立し、その理念を世界中に訴えている。

Photo by Puk Patrick on Unsplash

「本を読むとどんな知識が得られるのか?」

 本書は、資本主義について考えられた一冊なのですが「資本主義」という言葉を使っていません。代わりに「市場経済」という言葉で表現しており、「資本」は機械や生産手段といった言葉に置き換えられています。

 本書では市場とは、太古の昔から存在した「交換する場」だったこと。経済観念が生まれたのは、人が「余剰」を作り出したところから始まり、それは、1万2千年前の農耕という技術が発展したことによるものであると伝えています。

 そして、「市場経済」という言葉はつい最近の言葉であり、実態であることも指摘しています。それ以前は、「経験価値」>「市場価値」の時代であり、つまり「市場のある世界」だったといった流れで物語は進みます。そして、「市場のある経済」から、すべてを金額換算しようとしている「市場経済」へとシフトしていった歴史的な背景を産業革命時の具体的な話を交えながら、伝えていきます。

 元々、「格差はなぜ起きるのか?」という質問から始まり、現代の「市場経済」に生きる我々が現在起きている大転換期において、経済とは何かを知らないことがどれだけ恐ろしいことかをこれから起きるであろう世界を想像しながら、語っています。

 市場とは何か、経済とは何か、なぜ経済において最も大切なことは「民主主義」なのか。政治と経済を切り離すことがなぜ出来ないのか。娘になった気持ちで実に面白く物語に入り込める一冊となっています。

Photo by Devi Puspita Amartha Yahya on Unsplash

「イチカラセイジが得られたものは何か?」

①市場と経済は同じものではないということ

・本来、市場は「交換する場所」であり大昔から存在した。我々の祖先が木の上に住んでいた時代から、誰かが大昔にバナナと別の果物を交換しようと言い出したときに、市場の取引らしいものが生まれた。だがこれだけでは本物の経済とは言えない。 
・1万2千年前、農耕が始まり作物を収穫できるようになった。「余剰」が生まれ、余剰を記録するために「文字」が生まれた。取引に使う為の貝殻(硬貨)が誕生し、債務などの考えが生まれた。貝殻に価値を付与する為に「権威」が生まれた。権威を維持する為に、「宗教」が誕生した。こうして経済は形を成していった。

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②「経済価値」と「交換価値」の考え方

・経済価値と交換価値は対局にある考え方であり、経済学者はすべてを「値段」で測る。対局にあることを分かりやすく伝える例として、本書では以下のように表現していた。

「いい例が血液市場であろう。多くの国では、人々は無償で献血している。誰かの命を救いたいという善意から、献血するのだ。では、献血におカネを支払ったらどうなる? 
 答えはもうわかるだろう。献血が有償の国では、無償の国よりもはるかに血液が集まりにくい。おカネにつられる献血者は少なく、逆におカネを支払うと善意の献血者はあまり来なくなる。」

第2章「市場社会」の誕生 49頁

・古代ギリシャの時代といまの時代との違いはそのまま、「市場のある社会」と現在の「市場社会」との違いである。
・市場社会は、生産活動のほとんどが市場を通して行われるようになったときにはじまり、そのとき生産の3要素(労働者、土地、生産手段)は「商品」となり、「交換価値」を持つようになった。この大転換のきっかけはグローバル貿易がはじまり、イギリスが人類史上稀に見る残忍な改革「囲い込み」を行ったことで、「市場経済」にシフトした。
・産業革命によって、交換価値が経験価値を打ち負かした。結果、すさまじい富とすさまじい貧困が生まれた。農業革命が生んだ格差は、産業革命を通じてさらに拡大した。

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③生産とカネの流れの逆転。そして金融が生まれていった。

・封建時代には、余剰が経済の前提条件だった。「生産→分配→債権・債務」という流れだった。だが、大転換が起きた「生産後に余剰を分配するのではなく、生産前に分配がはじまった」。
・「囲い込み」によって、農奴が商人へと変わり、それぞれが事業を起こせる形となったが、事業を起こす為には先立つ資金が必要となった。それによって「借金」が生産プロセスに欠かせない潤滑油となっていった。商品たちは借金返済の為、利益を追求するようになっていった。
・以降、すさまじい富とすさまじい格差が発生するのは容易い話だった。

「最も低い価格を提示できた者が、最も多くの顧客を獲得できる。最も安い賃金で労働者を雇えた者が、最も多くの利益を手に入れることができる。最も生産性を上げた者が、どちらの競争にも同時に勝てる。」

第3章「利益」と「借金」のウエディングマーチ 81頁
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④経済・金融に介入すること。政府と通貨は切り離せない

・1929年の金融危機のとき、政府はマネーサプライを金に結びつけていた。いわゆる金本位制である。金本位制は現在のビットコインなどの仮想通貨と同様、通貨と政治を切り離す為の仕組みだったが、金融危機を招く結果となった。
・イギリス政府は1931年に金本位制を廃止し、ルーズベルト大統領が1933年に市民の金保有を禁止すると、やっと危機が和らいだ。政府や中央銀行がマネーサプライを管理するようになった為である。
現在では、政府や中央銀行がマネーサプライを調整することで、バブルと債務と経済成長の行き過ぎを防ぎ、同時にデフレと景気後退を退治する役目を担っている。
・通貨と政治が切り離せないことがわかったら、我々がやれることは一つ。「民主主義」の重要性を再認識し、通貨を管理する力を人々の手に与えるしかない。

pasja1000によるPixabayからの画像

当方が得た学びの一部を記載させて頂きました。
本書には、現在の「市場経済」がその後どうなっていくのか。著者の想像が展開されているのと同時にその時に我々一人一人に迫られる、選択肢について言及がされています。

長くなりました。

いずれにしても、市場経済の成り立ちについて歴史踏まえながら、物語口調で進む本書はまさに愛する「父親から娘へ贈られる金言」であり、なぜこのような話を娘に一生懸命するのか?というと、最終的には「民主主義の大切さ」と「政治との関わり」なのだという点。

結論だけ見ても「腹落ちしない」話だからこそ、本書があるのでしょう。
素晴らしい一冊に出会えたことに感謝し、今回の書評とさせて頂きます。

今回も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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