#15 デフレ下でムチ型成長戦略! 「奇跡の経済教室【戦略編】」①

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こんばんは、イチカラセイジです。

今回は、中野剛志氏著「奇跡の経済教室【戦略編】」について、皆様にお伝え出来ればと思っています。

2019年7月15日発行の本書。
奇跡の経済教室【基礎知識編】に続いての一冊であり、いわば後編にあたります。

本書について取り上げていく前に、前編にあたる【基礎知識編】ではどういったことが書かれていたのかを私なりにまとめると以下のとおりとなります。

・現在、日本を苦しめている「デフレ」とは一体どういったものなのか
・デフレ時における本来取られるべき経済対策
・その根拠となる理論についての説明(合成の誤謬、現代貨幣理論、機能的財政論)
・プライマリーバランス、財政健全化で滅ぶ国

特に、主流経済学者たちの主張に対して、一つひとつ反論していく内容は、読者にとって物凄い説得力を生んでいます。

現代貨幣理論、機能的財政論で考えれば、「国の借金は意識する必要がないもの」であり、「納税」という行為は、通貨に価値を与えると共に物価の調整を行う為の「機能」であるということです。

トンデモ論と呼ばれている主張らしいですが、ではなぜ中野氏の書籍が順調に売れているのか。国民も気付き始めているのだと思います。

また、奇跡の経済教室で述べられるような経済政策、財政出動を通じて、デフレ脱却に向けた取り組みをなぜ政府は行わないのか?
日本を代表する大学を卒業し、エリートとして歩んできた官僚や、様々な経験を積んで政治家になる優秀な方々がなぜこういった政策を実施しないのか?

読んでいて、非常に疑問を感じたところです。

その答えが詰め込まれているのが、後編となる「奇跡の経済教室【戦略編】」となっています。

非常に学びの多い一冊だったので、本書については2回に分けてお伝えしていきます。

それでは見ていきましょう。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

経済政策はどうやって決まる?「思想決定説」と「政治決定説」

経済政策が決めていく根本的な部分として、「思想決定説」と「政治決定説」があると本書では述べられています。

「思想決定説」とは、経済政策には、その発想の元となる思想があり、思想が経済政策を決めているという説です。

「政治決定説」とは、その経済政策を実行することによって何らかの利益を得られる勢力が政治を動かし政策を決めているという説です。

著者の考えでは、現在の日本の経済政策においては、どちらも正しいと思える面があるとのことです。

Free-PhotosによるPixabayからの画像

「アメ型」成長戦略と「ムチ型」成長戦略

一国の成長戦略は2つのタイプに分けられます。

一つは、「賃金主導型」成長戦略である「アメ型」成長戦略。
もう一つは、「利潤主導型」成長戦略である「ムチ型」成長戦略。

「アメ型」成長戦略はインフレを引き起こし、「ムチ型」成長戦略はデフレを引き起こすと本書では主張されており、ここでいう「アメ」と「ムチ」は労働者に対して向けられる表現として使われています。

先ず、結論から申し上げると、少子高齢社会、生産年齢人口の減少の中にある今の日本に必要なのは、上記のとおり「ムチ型」成長戦略ではなく、「アメ型」成長戦略=「賃金主導型」成長戦略になります。

Photo by Wes Hicks on Unsplash

「アメ型」成長戦略とは

特徴として、
・賃金の上昇を労働者に対するアメとする
・賃上げが実現されれば、消費が加速し、国内経済が成長する。
・人手不足は賃金上昇のチャンスであり、労働者の売り手市場であることを考えると労働組合の交渉力は強くなりやすい。
・強い労働組合、政府による労働者保護の強い規制

一方で経営者目線では、
・安い労働力を使う海外の企業との競争にさらされている中では、経営者・投資家側にとっては人件費がかさむことはデメリットと捉える。
・労働者保護に対する政府の規制が厳しい為、解雇も賃下げもできない為、国際競走で負けてしまう。

結果的に、
・企業は必死に人件費カット以外の方法で収益をあげようとする。
・付加価値の高い商品を生み出す努力をする。イノベーションを起こすために投資する
・利益が出たら、労働組合の賃上げ要求が来るため、それを受けることでさらに労働者側の賃金が上昇。
・賃金上昇に伴い、国内消費も拡大する。結果的にこのサイクルが延々と続く。

Photo by Felix Zhao on Unsplash

「ムチ型」成長戦略とは

アメ型の正反対の成長戦略となります。

特徴として、
・企業がより稼げるようにすることで経済成長を促す
・労働者保護に対する政府の規制や制約は緩和していき、労働組合を弱体化させる
・企業の利益は労働者に分配ではなく、投資家への還元を優先する力が強くなる
・海外からのヒト/モノ/カネが流入していくるグローバリゼーションによって、国際競争激化の中でさらに賃金抑制。
・企業が保有する技術力は、育てる/創造するから、「潤沢な資金で買う」にシフトする

一方で経営者目線では、
・労働者の人件費を抑制し、生産性の低い労働者は解雇できるようになる
・労働組合が弱体化することで、賃上げ要求が弱くなる上、安い労働力を海外からも調達できるようになる。

結果的に、
・労働者賃金を抑制する戦略であるため、経済はデフレ気味となる。
・短期的には企業は利潤を生み出しやすくなるが、「ゼロ・サムの世界」であり、一握りの勝ち組企業だけが利潤を増やし続ける仕組みとなってしまう。

日本はこれまで、デフレ下において「ムチ型」成長戦略をとっていたわけです。
アベノミクスでは、「トリクルダウン理論」を展開していましたが、結果的には労働者には利潤は回らず、内部留保という形で貯蓄に回ってしまいました。

その理由は明確で、労働者賃金を上げることは国際競争力を失ってしまう上、配当を要求する投資家の圧力が強くなる戦略化にあるためです。

これではいつまでたってもデフレから抜け出すことは出来ません。

Photo by Chalo Garcia on Unsplash

前半のまとめ

今回は2部構成としていますので、この辺で一度まとめとさせて頂きます。

これまで、経済政策を決定する考え方として

「思想決定説」と「政治決定説」の両方が日本の経済政策には存在している
「アメ型」成長戦略ではなく、「ムチ型」成長戦略を取り続けている

この2つの視点から、労働者側ではない、つまり、経営者・投資家・富裕層などの何かしらの利潤を得られる存在による政治への圧力(レント・シーキング活動)が展開されていることが予想できます。

とはいえ、どんなにレント・シーキングがはびこっていても、エリート財務省などの官僚がしっかり政策を間違えずに行えばこういった真逆の経済戦略にはならなかったはずです。

なぜ、財務省官僚までもがデフレ化における「ムチ型」成長戦略を支持し続けているのか、財政健全化という呪縛についても後半で取り上げていきたいと思います。

今回も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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