こんばんは、イチカラセイジです。
前回に引き続き、今回も中野剛志氏著「奇跡の経済教室【戦略編】」②についてお伝えしてまいります。
さて、前回の記事のまとめでは、経済政策を決定する考え方として
・「思想決定説」と「政治決定説」の両方が日本の経済政策には存在している
・日本は「アメ型」成長戦略ではなく、「ムチ型」成長戦略を取り続けている
ことが本書では述べられていることをポイントとしてお伝えしました。
今回は、ではなぜ、財務省官僚までもがデフレ化における「ムチ型」成長戦略を支持し続けているのか、なぜ誤りに気付かないのか、について本書から私が学ばせて頂いたことをお伝えさせて頂きます。
レント・シーカーはルサンチマン(怨恨)を巧みに使う
レント・シーカーとは
レント・シーキング(利益誘導)活動を行う企業、団体、個人を言います。
レント・シーキング活動は、自分の利益を増やすために、従来規制されている市場のルールや規制を変える為の活動です。
ロビー活動はレント・シーキング活動の一種と捉えて良いかと思います。
ルサンチマン(怨恨)とは
ルサンチマンとは、主に弱者が強者に対して、「憤り・怨恨・憎悪・非難」の感情を持つことを言います。
本書でよく使われている表現は、「我々は長引くデフレで憔悴しきっているのに規制に守られている国家公務員などはズルい!」といった「既得権益」叩きに使われています。
「大きな政府」を目指す必要があるのに、民営化を推進することに
デフレによってルサンチマンを抱きやすくなっている国民に対し、「既得権益」「官から民へ」の活動をレント・シーカーたちは展開し、これらの取り組みを積極的に推進する政治家は自らを「改革派」と呼びます。
そして、ルサンチマンに陥っている国民にとって「改革派」は聞こえが良い為、そういった政治家が当選し、レント・シーカーたちと共に規制解除、規制緩和に一生懸命取り組むという構図です。
さらにレント・シーカーたちは、自らの業界が有利に働くよう、業界所属の人間を政界に送り出すとともに、天下り先を用意するなど、官僚を抱きかかえるための活動をしていきます。
これを「回転ドア」と呼びます。
この実例をアメリカのウォール街を例に出しながら、金融業界がいかにしてレント・シーキング活動をしてきたのか、その結果政策どう変化していったのかが、本書では語られています。
官僚がしっかりしていれば防げるはずが
話を一旦もとに戻すと、経済政策決定の考え方として、2つの説「思想決定説」と「政治決定説」があるという話がありました。
レント・シーキング活動による一種の洗脳的な取り組みの結果は、「政治決定説」と呼べるかと思います。
一方で、日本の優秀な官僚がそれをなぜ防げなかったのか?という点に「思想決定説」が出てくると、著者は述べています。
著者は、国際的に見ても、実態として官僚主導ではなかった日本政府に対して、日本は「大きな政府」、「官僚主導」といった誤った認識を「官僚たち自身」が持ってしまった結果、内閣人事局を創設し、弱体化。
端的に言えば、人事を政治に握らせてしまいました。
結果的に、政治をコントロールしようと躍起になっているレント・シーカーたちの思惑と結びついてしまったと主張しています。
財政健全化論から脱却出来ない官僚
前半の記事を読んで頂いた方々にはご理解いただけるかと思いますが、財政健全化はもはや日本には不要というのが、著者の主張であり、現代貨幣理論と機能的財政論です。
寧ろ、財政健全化論に囚われすぎているのが、いまの日本であり、金融緩和は出来ていても、財政出動が出来ていないのが現状です。
財務省自身も、実は日本においてデフォルトは発生しないということを知っています。
ここで財務官僚が健全財政論を固く信じるようになってしまった理由のまとめを一部引用させて頂きます。
「そもそも、財政政策の憲法たる財政法には、第四条で均衡財政の原則が規定されています。これは、その出自も性格も、憲法九条のようなものでした。
奇跡の経済教室 「回転ドアと認識共同体」より
そして、大蔵省は、1970年代まで、およそ40年間、財政赤字の削減を使命としてきました。
1980年代になると新自由主義が流行し、アメリカやイギリスのエリートたちも、財政健全化が正しいと信じるようになりました。
この認識共同体の中で、日本の大蔵官僚たちは、従来の均衡財政への信念をますます固く信じるようになった。
財務省という組織が、財政健全化マニアになってしまった背景は、こういう歴史的な経緯もあったのではないでしょうか。」
保守派と新自由主義がなぜ結びつくのか
新自由主義というイデオロギーは、キーワードとして
・小さな政府(政府の市場への介入は出来るだけ無くしたい)
・規制緩和
・自由化
・民営化(官から民へ)
・グローバル化
・財政健全化
という「ムチ型」の経済成長戦略と繋がっていきます。
一方で、これまでの政治において保守派というのは、歴史的に形成されてきた慣習や伝統的な共同体や持続的な人間関係、過剰な民主主義に対する慎重な対応と、安定した社会秩序を尊重する価値観をもった人々であると本書では主張しています。
この2つは、本来相容れない考え方のはずですが、一点だけ「過剰な民主主義に対する慎重な対応」といった部分で合意が見られます。
本書では、これまでの歴史から、この「過剰な民主主義」の結果、経済がインフレ化すると言われています。
つまり、「インフレ=民主主義の過剰」と繋がります。
この部分で、保守派は、新自由主義と結ばれることとなったと著者は説明しています。
この「新自由主義」をイデオロギーにもち、利益を得る側になるのは、一般的には富裕層や経営者、投資家となります。
こういった資金力ある人間が、保守派を強く支持するようになることで、保守派は自然と新自由主義との結びつきが強くなって来るため、それらの政策についても基本的に受け入れる姿勢が整ってきてしまうという構図です。
平成の構造改革の誤りを認め、令和の政策ピポットへ
これまでの内容を見ていただいて、分かる通り、平成の構造改革は間違っていたわけですが、これからどうするのかが重要です。
令和新時代を迎え、経済政策も転換期としていくことがいまの現役世代が行っていくべきことだと感じています。
このまま、真逆のムチ型成長戦略を続け、財政健全化の名の下、緊縮財政、小さな政府として政治が進んでいくことは避けなければなりません。
本書では最後に、こういった経済政策の転換を促す運動を展開している方々を、「令和の政策ピポット」として紹介しています。
本来の保守派は、急速に進み続けるグローバル化の脅威から、国家主権を守りたい。本来のリベラル派は、グローバル化の脅威から、民主主義を守りたい。
グローバル化は保守・リベラル派関係なく、脅威であり、党派を超えて経済政策において共通項の取り組みを進めていくことが出来るはずだと締めくくられています。
奇跡の経済教室から学ばせて頂いた内容 まとめ
・日本はデフレ化の中で本来行うべき経済政策の真逆となる「ムチ型」成長戦略を取り続けてきた
・ムチ型成長戦略によって、利潤を得るレント・シーカーたちの時にはルサンチマンを巧みに使った国民の潜在意識誘導も行われてきた結果、国家も国民も、「大きな政府」「既得権益」などが「悪」だと思わされている。
・民衆を代表する政治家においても、ビジネスセンスで国の経済政策を語り、改革を進めることが美しく評価されるようになってしまい、正しい経済政策がより受け入れにくい社会環境が形成されてしまった。
・政治がダメなら、本来官僚がしっかりしなくてはいけないが、こと財政政策においては優秀な財務官僚たち自身も、財政健全化が正義だと信じ込まされてきた。
・思想型決定説、政治決定説、ともに存在する日本政府の現状。正しい理論に基づいた情報を本書も含め、様々な媒体で国民に浸透していくことが重要。
2回に渡ってお伝えしてきた本書「奇跡の経済教室」ですが、いままでの固定概念をくつがえされるような一冊となっています。
加えて、読者が読み進めていく上で、疑問に思うようなことも予想し取り上げながら解消できるような構成になっていることもあり、非常に読みやすい一冊になっています。
多くの国民に読んで頂きたい一冊となっています。
今回も最後までお付き合い頂き、有難う御座いました。
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